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HIRANO AYUMU A NEW CHAPTER

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平野歩夢の新たな物語が始まる


史上最高難度のルーティンを決め、誰もが納得する圧倒的な滑りで念願のオリンピックの金メダルを獲得した2022年の平野歩夢。
全てを成し遂げたようにも思える彼は、ここからまたどんな挑戦を思い描き、これからを生きていくのだろうか。
新たなスノーボードシーズンが始まろうとしている中、平野歩夢はスイス・ザースフェーで自らの次なる挑戦について思いを巡らせていた。
そんな彼のザースフェーでの1日を追いかけることから、この特集を始める


「ここ数年、秋はザースフェーで練習をしています。この時期は世界中からトップアスリートが集まってくるので、練習の環境として最適です。みんなが刺激し合いながら、高め合っている空気に満ちています。朝早くに起き、始発でロープウェイに乗って、1時間近くかけて頂上のパイプまで行く時間は憂鬱でもあるんですけどね(笑)。練習を終えて帰ってくると、夕方の4時頃になっていて、ヘトヘトになります。今回撮影で使わせてもらったカフェは、練習後の疲れた心身をリフレッシュさせようと、みんなが集まる憩いの場です。ドリンクもケーキも美味しいので、自分も時々行くのですが、ハードな日々の中で息抜きできる貴重な場ですね。滞在先に帰ってくれば、基本的には自炊して、その日の練習映像を見ながら食事。その後部屋で身体のケアをしているともう1日が終わります。そしてまた朝から練習に向かう……、その繰り返しで心身共に鍛えられていくんです。」




【着用アイテム】
シームレスダウンパーカ(3Dカット)
クルーネックTシャツ(半袖)
ニットフリースイージーアンクルパンツ
スウェットシャツ(長袖) ※着用カラーは、11月下旬販売予定
※その他、スタイリスト私物




INTERVIEW

平野歩夢[次なる旅路]

北京オリンピックから半年以上が過ぎ、常に“挑戦”に臨む平野歩夢が今何を考えているのか知りたかった。
期待するこちらの内心を見透かすように、平野は自らのペースで自分の現在地を語っていく


「昨日さ、歩夢くんが飛んでたんだよ」
「マジで?もうここに来てるの?」
「すごかったよ、バチバチにアタックかましてた」
「見たかったなあ」
 10月、スイスのザースフェー。一年中雪が溶けることのない雪山の上に、この時期世界中からナショナルレベルのスノーボーダー、スキーヤーたちがトレーニングに集まる。平野歩夢も10月から行われる日本代表チームの合宿に参加するため、この地を訪れていた。そしてその合宿が始まる前の数日間、小誌の撮影のために時間を割いてもらうことになっていた。
 冒頭の会話は上空1000メートル以上、ハーフパイプやスキー場が整備されている標高3500メートルの「Mittelallalin」を目指す途中のロープウェイの中で耳にしたものだ。会話の主は中学生か高校生ぐらいの日本人の少年たち。ちょうど日本のジュニア世代の代表合宿もここで行われていたのだ。彼らはこれから行う小誌の撮影のため、自身の状態を確かめに滑っていた平野の姿を見たのだろう。彼らの声色から窺えるのは平野への羨望や憧れ。北京オリンピックにおいて、圧倒的なルーティーンで念願の金メダルを獲得した平野は、紛れもなくこの先世界のスノーボード界をリードしていく存在となった。そのことをあらためて実感させる彼らの会話だった。
 その後、雪山と街中での撮影を終え、翌日滞在先のホテルで平野へインタビューを行った。毎回、平野にはその日着用した服についての感想を訊ねるが、ファッション好きでもある彼は丁寧にそれぞれのルックについて答えていく。
「今回特にお気に入りだったのは黄色のボーダーのルックですね(style04)。プライベートでもセレクトしたくなるこの2色の色合いとサイズ感は安心感がありました。あとはこの白パンツのサイズ感も良かったです。普段自分が着るものに近く、この品のあるオフホワイトも気に入りました。穿き潰すぐらい着込んだら味が出てもっと良くなるかも。シャツの色もしつこくなくて、いいなと思いましたね(style01)。それから、オーバーサイズのニットも良かったです。首の締まりもラフな感じで、着ていて楽でした。これ一枚で着ても、風を感じられてちょうどいいんじゃないかと。着こなしで工夫ができるアイテムだと思います(style03)」

周囲からの視線

 ひとしきり撮影についての話を終えた後、北京オリンピックを終えた後の日々について平野に質問してみた。スケートボードとスノーボードの二刀流に挑んだ北京までの怒涛の日々と比べると、だいぶリラックスした時間を送れていたのではないかと思ったからだ。その久しぶりの休息を、平野はどのように過ごしていたのか訊ねたところ、返ってきたのは意外な答えだった。
「金メダルを獲得したことで、また日本での自分の立場が変わったことを実感した日々でした。どこにいても周りからの視線が気になるというか。誰かがスマホで写真を撮っているのもわかってしまうし、これまでもオリンピックの度にそうした変化はあったのですが、今回はこれまでの比ではなかったです。もちろん嬉しいことでもあるんですけど、時にはそれが窮屈に感じたり……。人との関わり方にも変化がありました。今までは競技のことだけを考えて、自分が納得できる負荷のかけ方をしてきたんですけど、今回はそうした負荷とはまた全く別のものなので、自分でもどう対処すればいいのか考えながら過ごす期間でした。別に全てが悪いことではないんです。そうした自分の立場を再確認して、もうこれはやるしかないと、今はそうした気持ちになっています。いろんな気持ちが混じり合った日々でした」
 金メダルを獲得した者にしかわからない苦悩。しかもあれだけの劇的な試合を繰り広げたことも、世間の注目を一層高めることになった要因なのだろう。そんな平野はインタビューの前日、スノーボード界のレジェンド、ショーン・ホワイトと会食をしたという。意外にもほぼ二人だけの状況で食事をするのはこれが初めて。その事実だけでも平野とショーンの二人の間の関係性が垣間見える。
「これまでショーンとは練習や試合で一緒になることが多く、会ってもお互い挨拶を交わす程度だったので、今回の食事の場ではいろいろ訊きたいことがあったんです。その場の雰囲気もあったので全部は訊けなかったんですが、例えばショーンは金メダルを取った後はどんなことが大変だったのか、周囲からの視線に対してどう対応していたのか、そういったことを訊きました。ショーンの方が自分よりも長い間そうしたストレスとかプレッシャーと向き合ってきたと思うんです。そうしたらショーンも自分と同じようなことで苦労していたことを話してくれた。とても貴重な時間でした。ショーンだからこそ訊けることがたくさんあるなと感じました。他にも訊きたいことはあったんですけど、それはまた次の機会にとっておこうと思っています」
 スノーボード界の歴史にその名を残す二人の穏やかな交流。頂点にたどり着いた者にしかわからない苦悩を共有することで、平野の気持ちも少し晴れたのかもしれない。ショーンとの初めての食事を語る彼の表情は柔らかかった。

二刀流を超えるもの

 いよいよ新たなスノーボードシーズンが始まる中、平野の次なる目標ははたしてどこにあるのだろうか。誰も成し遂げたことのない“二刀流”をやり遂げ、金メダルをも獲得した彼が次に目指すことに興味があった。しかし、平野自身もそれについてはまだ悩んでいるという。
「競技に関しては、前の4年間とはまた違うチャレンジをしていきたいと考えています。前回は二刀流という新たなチャレンジがあったからこそ成長できたと思っているので、“新たな”という部分は大事にしたいです。ただ、二刀流以上の挑戦となるとなかなか思いつかない。それに新しいことに挑戦するのは常に勇気が要ります。ただ、今のところはスノーボードがメインになるのは間違いないです。スケートへの挑戦は一度やり切ったと思っているので、同じ形でのチャレンジでは考えていません。もちろんこの先も続けてはいきますけど、それはスノーボードに還元できるものがあると考えているからで、あくまでスノーボードのためのスケートとして捉えています」
 新たな挑戦という意味で、スノーボードでの新技の可能性についても訊いてみた。北京では「トリプルコーク1440」という超大技を決めた平野だが、大会後のインタビューで世界初のトリック「フロントサイド1620」も用意していたと語っていた。
「この数日間周りの滑りを見ると、トリプルコークや1620の練習をしている子が結構いましたね。難しいトリックの練習をしている時はバグマットを使うんですが、みんな今それを使いたいので渋滞しているんです。まだメイクはできていなかったですけど、4年間もあるのでいずれ習得する可能性はあると思います。そうなると、次のオリンピックまでにどのトリックが必要になってくるかは大体わかってくる。それはそれでなかなか厳しいものがあるのですが……。みんな次こそは負けられないと、覚悟をもって新技に挑んでいると思うんです。それを乗り越える強さを得るために、自分にとってはスノーボード以外のことが意外と大事になってくるような気がしています」
 平野は自らの滑りをある種観念的に解析しているところがある。常識的に考えれば、練習すればするほど上手くなり、誰もがそれで納得するのだが、平野は違う。たとえ習得するトリックは同じでも、そこに辿り着くまでのプロセスを彼は重視するのだ。
「練習だけで新技を習得しようと考えている人がほとんどだと思いますが、自分の場合はそれだけじゃありません。もちろんスノーボードの練習も大事ですけど、それ以外の部分、スケートだったり生活や生き方を構成する様々な部分で、人とは違う道、独自のスタンスをもって挑むことが頂点に立つ上で必要なんです」
 北京直後のインタビューでは、競技以外でこれから挑戦していきたいことをスマートフォンにメモしていると語っていた平野。彼が再び頂点を目指していく上で、そのメモこそが鍵になってくるのではないかと思い、その現状を訊いてみた。
「このメモ、1日3回くらい見ちゃいます。見ると、『ああ……』と少し落ち込むんですけど。今の自分を超えていくためのメモでもあるので、ここに書かれていることの重さを感じてしまう。でもやっぱり今はスノーボードに懸ける思いが強いかな。スノーボードとスケート以外のことに関しては、いつか競技を引退した自分が熱中できるものであればいいなという思いがあるので、そこはゆっくりと時間をかけて育てていきたいです」
 スノーボード界ではもはやベテランと呼ばれる年齢になってきた平野。最後に、自らの身体と競技の関係性について今後どう考えているかを訊ねた。
「今まではできるだけ他人に頼らず、食事も練習も身体のケアも、どんなことでも自分で考えてやってきました。たとえ自分の選択が間違いだったとしても、その積み重ねが自分自身のためになったんです。ただこれからは身体の状態も上がっていくことはないので、自分が信頼できる人のサポートもプラスしていきたいと思っています。今まで積み上げてきた自分の経験に、人の力を組み合わせることで、より長く競技人生を送れるんじゃないかと。人との出会いは簡単なものではないですが、その新たな縁も今は楽しみにしています」



平野歩夢
1998年生まれ。TOKIOインカラミ所属。冬季北京オリンピックのスノーボードハーフパイプで金メダルを獲得。2018年、ユニクログローバルブランドアンバサダーに就任。




SWITCH 2022年12月号

【Staff Credit】
COSTUME; UNIQLO
PHOTOGRAPHY; WAKAGI SHINGO
STYLING; HASEGAWA AKIO
STYLING ASSISTANT; YK.jr
HAIR & MAKE-UP; KENSHIN
TEXT; HIRAKI TERUMASA


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