今夏、日本史上5人目となる夏冬オリンピック出場を果たした平野歩夢。
彼があらためて振り返るスケートボードへの挑戦、そして次なる戦いへの展望。
【着用アイテム】
防風アウターフリースジャケット(長袖)
スウェットシャツ(長袖)
ユーティリティワークパンツ(コーデュロイ)
※その他、スタイリスト私物
INTERVIEW
平野歩夢 ひとつの挑戦の果て
東京オリンピック開幕が3カ月後に迫った4月下旬。スケートボードとスノーボードの二刀流のハードなスケジュールの合間を縫って平野歩夢は今回の撮影に臨んだ。しかし、そんな中でも平野の表情は終始柔らかく、リラックスして撮影を楽しんでいるように見えた。
「今回の撮影は普段の自分のスタイルとは異なるコーデや色合いが多かった印象です。ピンクのパーカーやMA―1は私服で着たことがなかったので新鮮でしたし、自分のファッションの参考にもなりました。ジャケットも私服に組み合わせることはなかったんですけど、色も生地感もすごく好みに近いものでしたね。冬のオリンピックが終わってからになってしまうと思うけど、ユニクロさんともまた新しいことを始めていきたいです」
この撮影の1カ月後、平野はスケートボードのパーク種目で見事オリンピック出場を決める。夏冬両方のオリンピック出場は日本史上5人目となる快挙だ。結果として、平野の東京オリンピックは予選14位に終わったが、競技を終えた平野の表情は晴れやかなものだった。
スケートボードとの三年間
3年間のスケートボードへの挑戦に一区切りついた今、平野の胸に去来する思いはどのようなものか。オリンピック後、地元の村上市に滞在している平野にリモートインタビューを行った。まずは試合当日の心境について訊ねると、いつものように言葉を丁寧に紡ぎながら訥々と語ってくれた。
「自分の種目のパークスタイルで、日本代表として出場できたのは自分1人でした。その出場権を得るまで、ずっとスケートボードに懸けてきた、本当に上手な選手たちと戦ってきました。そうした人たちの思いの上に自分がオリンピックに出場できていることを無駄にしたくないという気持ちが強くあって。あまりそういったことを考え過ぎてしまうとプレッシャーになってしまうんですけど、本番では自分にしかないものを思い切って出すだけだと、自分の滑りに集中し、今までで一番良い滑りができた。楽しい気持ちで終われました」
平野が滑ったのは予選の最終4組目。今回の男子パークのメダリストが勢揃いしたハイレベルな組でもあった。
「僕以外の4人は大会の優勝経験もあって、練習の参考にもさせてもらっていた本当にトップクラスの選手たち。こんなメンバーの中で滑れる機会はもうないだろうなとポジティブに捉えないと、圧で潰されそうな感じはありました(笑)。逆にこの中で自分が一番目立てるもの、武器にできるところは何なのかを考えましたね。スノーボードで培ったエアの高さ、スピード感は唯一自分が自信を持てる部分だったので、その部分をイメージして試合に臨みました。事前の練習では、1回も持ち時間の45秒を滑り切ることができなかったんですが、本番フルメイクできたのはあの4人と同じ組だったおかげかもしれません」
オリンピック当日のことを振り返ってもらった後、このスケートボードの挑戦が平野にもたらしたものとはどのようなものだったのか、あらためて訊いた。
「“それしかない”状況ってとてつもないプレッシャーを感じたり、時には投げ出したくなったり、そういった気持ちがこみ上げ続けてくるんです。スノーボードだけしかやっていなかったら、そんな重圧との戦いがずっと続いていたんだろうと思います。この3年間はスノーボードでは経験できない刺激的なことが本当に多くて。個性的で魅力的な選手たちが多い中、自分がチャレンジャーとしてどこまで戦えるかという状況で、小さい時にコンペに憧れていた感覚を思い出すことができましたね。それと、他人じゃなく、自分自身と向き合って戦わなければならないというスポーツの原点により近づけた感覚もあって、気持ちの面で大きく成長できたと思います。それはこれからスノーボードにも活かしていきたいです」
来年2月には冬季北京オリンピックが開催される。1年以内に2度のオリンピック出場を目指すことの過酷さは、我々には全く想像も及ばない。
「スノーボードは自分のベースとなる競技ですが、今のレベルから半年でメダルを争うところまで上げなければならない状況は、これまでの2回の冬季オリンピックと違う未知なる部分です。だからこの挑戦もすごく大きなもの。この3年スケートボードに重点を置いていましたし、他の選手のレベルもかなり高い。普通に戦ったらちょっと厳しいかなと正直思っています。今は感覚を戻しつつ、作戦を練っている段階ですが、他の選手がやってない変化球的なものも見せていこうかなと」
平野は以前のインタビューで「自分が挑戦する姿が、未来の誰かのためになってくれればいい」と語っていた。今回の平野の挑戦はまさしく、これからスケートボードをはじめとした横乗りのスポーツ、さらには新しい何かへの挑戦を考えている人にとって、大いなる勇気をもたらすものだった。最後に、平野はそんな新たな挑戦に臨む人々に向けてのメッセージをくれた。
「自分はこの挑戦を通して、負荷がかかればかかるほど、これから自分がどうしていきたいかというところにもっと身軽に挑戦できるのではないか、という考えに辿り着きました。自分だけの正解、ゴールを切り拓いていくのはとても難しいことですけど、失敗しても向き合い方次第で成長できるし、挑戦しているあなたの姿に刺激を受ける人もきっといます。どう言えばいいのか難しいけど……これから何かをやってみようという人には、自分だけのスタイルと答えをイメージして、後悔なく自由に立ち向かっていってほしいと思います」
平野歩夢
1998年新潟県生まれ。TOKIOインカラミ所属。冬季オリンピックのスノーボードハーフパイプ種目で、2大会連続で銀メダルを獲得。今年の東京オリンピックではスケートボードパーク種目に出場。2018年、ユニクログローバルブランドアンバサダーに就任。
【Staff Credit】
SWITCH 2021年10月号
PHOTOGRAPHY: WAKAGI SHINGO
STYLING: HASEGAWA AKIO
HAIR & MAKE-UP: KENSHIN
TEXT: HIRAKI TERUMASA