映画『0.5ミリ』のロケ地として訪れた高知県に惹かれ、2014年に東京からの移住を決意した映画監督の安藤桃子さん。移住、結婚、出産と、さまざまな環境の変化がありながらも、芯の通った強い意思と、周りをも巻き込んでいくエネルギッシュな行動力は変わらない。自然の多いこの地を拠点にしてから、不要なものは淘汰され、自分にとって大切なものが何かを見分ける感覚が、日に日に研ぎ澄まされていくのだとか。そのスタイルはまさに、人の生活に寄り添いながら常に進化していく、ユニクロのベーシックアイテムに通じるものがある。あたたかい笑顔と、強いこだわりが詰まった、彼女のライフスタイルとは。
<着用アイテム>
プレミアムリネンシャツ
コットンリネンロングシャツ
ウルトラストレッチジーンズ
_映画『0.5ミリ』撮影後、高知に移住を決めた理由は何ですか。
「撮影している間から、不思議と『あ、私はここに住むんだろうな』と感じていました。自分が生まれ育った東京の町の、かつての人のあたたかさとか、街並みとか、懐かしい空気が高知には残っていて、新しいところに引っ越すというよりも、帰って来た、という感覚。海外生活も長かったんですけど、今までで一番しっくりきた土地なんです。通りすがりに挨拶をすればみんな当たり前のように挨拶が返ってくるし、飲みに行けば、気づいたら隣のお客さんと一緒に飲んでいることもしばしば。ここに住んでいるのは、コミュニケーション能力がすごく高い人たちばかりですね。
時間もゆったりと流れるこの土地にいると、東京ではなぜあんなに急いでいたんだろう、忙しいことは決してかっこいいことではない、と思うようになりました。そもそも追われているのではなくて、追われていると感じるリズムを自分で作っているだけだって気づいたら、なんだか恥ずかしくなってしまって」
_都会を離れても、不足は感じないですか?
「何かが足りていないってことばかり考えていたら、どんどん不足していくばかり。こっちに来てから、“足るを知る”ことが大事だなって思うようになりました。本当に美味しいコーヒーを一杯飲んだら、お菓子を食べたいとは思わないし、本当に美味しいご飯を食べたら、馬鹿食いなんてしなくても満たされる。食べ物が体内に入ってエネルギーを吸収していくシステムはあるけれど、幸せだとか、美味しいと感じるのは心の部分。高知は、物質的なこととはかけ離れた、心のメーターが満たされていく場所ですね」
_変わらずにずっと大切にしている考え方などはありますか。
「映画監督はレンズを通して被写体を見るのが大事な仕事ですけど、同時に、心の眼で見ることを忘れないようにと、常に自分に命じています。目に見えることだけじゃなく、もっと本質を感じ取る。そういう基本的な意識って、意外と忘れてしまうんですよね。私は頭で考えすぎるところがあるので、落ち込むとけっこう長く引きずってしまいます。すると心の眼はどんどん霞んで、自分の正直な気持ちがわからなくなって、メランコリーのループに入り込んじゃうんです。だからいつも、何かそばに書くものがあれば“心眼”って書いています。これは今でもずっと変わらないです」
_制作の現場では、監督という立場で多くのスタッフをまとめる大変さはありますか。
「ブレている人には誰もついて行きたくないですよね。だからまず絶対に必要なことは、監督がしっかりと絵を持っていて、それをみんなで共有するという志。そこにズレがあると、つくりたいものからどんどん離れていきます。もっと理想を言えば、私以外のたくさんのスタッフの想像力がプラスされることによって、私が思い描いていたものをはるかに越えたものが生まれてこないと、楽しくないですよね。1+1は無限大を目指して」
_映画の作品をつくる上で、自分らしさはどこにあると思いますか。
「映画には方程式があって、それを理解したうえで崩していくのが正しいあり方だと思っています。先人たちがつくった作品に対して敬意を持ちながら、そこを土台にするところからしか新しいものは生まれない。さらに自分だけの表現とは何かと考えていくと、今はもう、なんでも成されちゃっている時代ですよね。特に芸術はだいたいすべてやり尽くされている。だけど世界中にはこれだけ生き物がいて、すべての生き物がそれぞれ全部違うじゃないですか。同じ人も同じ花もない。その個々の中にしか、唯一のものをつくる方法がないと思います。今この瞬間も、自分が何を感じているか、日常全てが作品の構想です。映画は人生、人生は映画、みたいな。すべてつながっていますよね」
_身につける洋服にルールはありますか?
「愛着を持てないものは着ないので、買ったら早く汚したくなってしまいます。自分にとって大切にする意味とストーリーがあるかどうか。そうですね、ドラマが大事かもしれません。すごく高価な服を買って、自分はこれだけ払ったから一生大切にするんだっていう価値観もひとつの考え方かも知れませんが、いかんせん私はそういう金銭感覚じゃないので、それが100万円だろうが、1000円だろうが、気に入ったら10年20年着きたいし、自分の付き合い方次第で、自分にとってワンアンドオンリーになると思っています」
_撮影の現場ではどんなスタイルで臨んでいますか?
「ゆるい服ってゆるい気持ちになるし、ピタッとしているものは身が引き締まる。撮影期間は毎朝気合を入れて現場に臨むために、スキニーデニムを選ぶことが多いですね。ユニクロのブラックスキニーは2本持っていて、『0.5ミリ』の撮影中も、交互にずっと履いていました。毎日履き込んでいるといい感じに馴染んでくるんですよね。ピタッと肌に密着するけど、動きやすくて楽なので、撮影の日にいいんですよ」
_今後挑戦していきたいこと、変化していきたいことはありますか。
「常に次のことを考えています。東京と高知を往復しながら仕事をしていて、子育てもしているし、今日の晩ご飯の献立も考えている。楽しいことがいっぱい平行して進んでいます。とにかく、日常のすべてが作品の構想になっていく。ここ高知で、強烈な自然とパワフルな地元の人たちと触れ合いながら、自分の内面とさらに向き合いたいです。それが、新しいものをつくる一番の方法だと思っています」
<着用アイテム>
プレミアムリネンシャツ
コットンリネンロングシャツ
ウルトラストレッチジーンズ
(プロフィール)
安藤桃子
1982年東京都生まれ。映画監督。俳優、映画監督の奥田瑛二、エッセイストの安藤和津を両親に持つ。ロンドン大学芸術学部を卒業後、ニューヨークで映画作りを学び、監督助手として映画の現場に入る。2010年監督・脚本を務めた『カケラ』でデビュー。11年初の書き下ろし長編小説『0.5ミリ』を刊行後、14年には妹で女優の安藤サクラ主演で映画化。多数の映画祭に出品され、国内外で高い評価を得る。現在は監督以外にもコラムの連載、J-WAVE「MAGAZINE HOUSE RADIOFAST」のラジオパーソナリティーなど、その活動は多岐に渡る。
Photography & Movie: Takeshi Shinto
Movie edit: Kenichi Murase
Music: Kazuki Sugawara
Edit &Text: Satoko Muroga(Rocket Company*/RCKT)
Cooperation: 喫茶ブラウン