確かな審美眼をもつファッションのプロが、バラエティ豊かなラインナップから “ コレは! ” な逸品をセレクト。今回はカジュアルスタイルの核であり、ユニクロの数あるボトムスのなかでも主役的なアイテムであるジーンズに注目し、そのこだわりや各モデルの特徴を前編・後編の2回にわたって大特集。まず前編では、ユニクロジーンズの並外れた作り込みに迫ります。最後の「ジーンズ基礎用語集」もお見逃しなく。
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ファッションライター
いくら直幸さん
かねてからのジーンズ好きが高じて人気デニムブランドに就職。その後、'90年代のジーンズブームを牽引した伝説の雑誌『Boon』でキャリアを積み、現在は『Begin』『OCEANS』など幅広く活躍中。
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「ユニクロのジーンズというと、販売当時、世間に大きな衝撃を与えたロープライスばかりがフォーカスされがち。確かに、その低価格は魅力的ですが、一方では “ 安かろう悪かろう ” というイメージを抱く人も。しかし、侮るなかれ!飽くなき探究心を持って作り込まれたそれは、専門ブランド顔負けのクオリティが実現されており、目の肥えたフリークも唸る逸品が揃っています。今回は、古今東西の膨大なジーンズに触れ、生産背景の取材も幾度となく行ってきた僕から見た、ユニクロジーンズのスゴさを徹底解説します」
「ジーンズの生まれ故郷であるアメリカ・カリフォルニア。なかでも中心都市のロサンゼルスは、多くのデニムブランドの拠点や関連企業のオフィスが集中する、ジーンズにおけるシリコンバレーのような存在です。また全米各地からヴィンテージデニムが集まる巨大フリーマーケットの開催、ハリウッドセレブに代表される旬の着こなしやトレンドの発信地であるなど、デニムカルチャーのすべての情報が集まります。
ユニクロでは2016年、その聖地に『ジーンズ イノベーション センター』を設立。ここは新たな素材やシルエット、加工などの研究開発を行う専門の施設であり、ジーンズのスペシャリストたちと最新の設備が集結したユニクロジーンズの心臓部です。世界を見渡しても、ここまでのラボラトリーを自社で構えているのは、大手デニムメーカーでもそうそうありませんが、これにより一段と深くまで踏み込んだプロダクトを生み出すことが可能になりました。
さらにロサンゼルス発の人気デニムブランド〈J ブランド〉と協業し、最先端のデザインや流行を取り入れると同時に、誰にとっても優しいベーシック性や着こなしやすさも追求。専門メーカーにも引けを取らない、いや、それ以上の情熱と英知、最高の環境をもってジーンズ作りに力を注いでいるんです」
「フィットはジーンズの良し悪しを決める重要なひとつです。特に5ポケットタイプは普遍的かつ不変的なデザインが魅力ではありますが、その一方、シルエットには時代性やトレンドが如実に表れます。また、わずかな違いでも穿き心地に大きな差が生まれ、さらに脚を長く見せたり、ヒップラインをキレイに演出するなど、ジーンズ選びのポイントになります。
ユニクロでは新たなシルエットを開発するまでに、何度もサンプルを製作し、数百人もの試着を行ってミリ単位の調整を繰り返しながら最良のフィットを導き出しています。また晴れて商品となり、店頭に並んだあとも、世の中の流れやユーザーの声に応じて細かな微修正を加えるなど、常に格好いいジーンズであり続けるためのマイナーチェンジが。誰が穿いてもサマになる一本を目指して、日々進化しているんです」
「ジーンズの表情や穿き心地を決定づけるファブリックは、フィットと並ぶ非常に大切な要素です。ユニクロでは、高品質で知られるデニム生地専門のトップメーカー、日本のカイハラ社とのタッグをはじめ、先進的な繊維メーカーと協業した機能的な新素材など、オリジナル生地の開発に余念がありません。また世界一のストレッチデニムと謳われるトルコのイスコ社の他、アイテムの特徴に合わせて国内外から厳選された生地が使われています。
本格ジーンズの趣を味わえるオーセンティックな生地、クラシカルなセルビッジデニムを気軽に楽しめるよう穿き心地を向上させたもの、驚きの軽さやストレッチ性に特化したタイプ、スウェットパンツ感覚の快適性を実現した素材など、好みに応じてチョイスできる多様なファブリックが用意されているので、 是非とも店頭で手に取り、風合いを確かめ、試着をして、特徴を実感してみることをオススメします。ゴワゴワと硬くて重い昔ながらのそれとは違って、より身近に、より気軽にジーンズを堪能できるはずです」
「縫製はヘビーに穿き込んでもヘコタレないようタフに、そして正確に。さらに一見では気付きにくいものの、細かなこだわりが隠されています。例えば正統派のレギュラーフィットは、ヴィンテージの仕様にヒントを得て、部位によって金茶とイエローの2色のステッチを使い分け、立体感のある力強い風貌が演出されています。この他にもジーンズの個性や使用する箇所に応じて、太さや色、素材や撚り方の異なる何種類もの糸を使い分けて縫い上げられているんです」
「穿き込むほどに色落ちやダメージが刻まれ、いっそう趣が深まるのもジーンズの醍醐味。ユニクロでは自分で育てられるノンウォッシュのリジッド(濃紺)に加え、最初から古着のような表情を楽しめるユーズド加工のタイプも幅広くラインナップされています。
ストーンウォッシュやブリーチ、職人の手作業によって1本1本丁寧に生地を擦るシェービング、穴を開けた裏から当て布をしてステッチで補修するクラッシュ&リペア、最新鋭のマシンで生地を痛めることなく色落ちを施すレーザー加工など、その手法は多種多様です。豊富な経験と確かな技術、ローテクとハイテクといった様々なノウハウを駆使して表現されるリアルなエイジングは、本物のヴィンテージと見紛うほど」
もっとジーンズを楽しむため、最低限コレだけは知っておくべき基礎用語をピックアップ。覚えておくとプロダクトへの理解が深まり、新たに購入する際のチェックポイントにも。またショップやデニム談義などでサラッと口にすると、“ わかってる感 ” も急上昇!
【アタリ】 重要度★★★
主にジーンズの両脇の割り縫いに沿ったライン状の色落ち、またポケットに入れた財布などの跡の色落ちを指します。コインの上に紙を敷き、鉛筆で擦るとその形や図柄が浮かび上がる「擦り出し」と似た原理によって起こり、穿き込まれたデニム特有の味な表情のひとつです。例えば、セルビッジ(後述)に当たって現れた色落ちは「セルビッジのアタリ」と言います。
【オンス】 重要度★★☆
ヤード・ポンド法における質量の単位で、1オンス=約28.3g、記号は「oz」で示されます。ジーンズでは生地の重量を表し、パンツ1本あたりではなく、1平方ヤードの重さ。10~14オンスが一般的とされ、それより重いデニムは「ヘビーオンス」、軽いものは「ライトオンス」と呼ばれます。
【コインポケット】 重要度★★★
5ポケットジーンズの、主に右前ポケットの入口に配されているミニポケットのこと。その誕生当初は懐中時計を収める「ウォッチポケット」でしたが、腕時計の普及に伴って硬貨を入れる「コインポケット」と呼ばれるように。またジッポーライターを入れてアタリ(先述)を楽しむ愛煙家も。
【スレーキ】 重要度★☆☆
本来は、滑らかで光沢のあるコットンの綾織物の名称ですが、ことジーンズをはじめとするメンズウェアでは、ポケットの裏地に使われる袋布そのものを指します。そのため、ウールやナイロンなど異素材の袋布も、総称してスレーキと呼ばれています。
【セルビッジ】 重要度★★★
旧式織機を用いたデニム生地の両端にある “ ミミ ” を指し、ヴィンテージ、またはその風合いを再現した生地の目印に。そのままでも生地の端がホツレないため、ジーンズでは両脇裏の割り縫いなどに使われています。赤いステッチが施されているものがポピュラーなことから俗称で「赤ミミ」とも。
【パッカリング】 重要度★★★
洗濯をすると生地&縫製糸の縮率の違いから引きつりや歪みが生じ、シワが連続した凸凹の状態に。これをパッカリングと呼び、凸部分は擦れて色落ちしやすいため、そのコントラストの効いた立体的な表情が格好いい経年変化のポイントになります。ポケット口や裾など要所に現れますが、特にチェーンステッチの箇所は迫力のあるパッカリングが刻まれるので、丈上げの際はチェーンステッチがオススメです。
【ヒゲ】 重要度★★★
ジーンズの股から太腿に掛けて、放射状に広がった穿き込みジワ&色落ちを指す俗称で、そのカタチが動物の頰ヒゲに見えることが名の由来。これに対し、膝裏に刻まれる同様の色落ちを “ 裏ヒゲ ”、またハニカム模様にも似ているためツウの間では “ ハチノス ” とも呼ばれています。
【リペア】 重要度★☆☆
穿き込まれたジーンズのホツレや破れを、当て布やステッチなどで補修することを指します。ヴィンテージライクなダメージ加工のモデルでは、あえてクラッシュを施して穴を開け、わざわざリペアしてふさぐという手間暇の掛かる工程を経て表現されます。
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【Staff Credit】
撮影:杉田裕一(POLYVALENT)
構成・スタイリング・文:いくら直幸