インダストリアルデザイナー、田村奈穂。彼女が大切にしているのは「バランス」。
デザイン、暮らしぶり、そのすべてに彼女の哲学が表現されている。
BY FELIX BURRICHTER
ニューヨークのブルックリンにある、田村奈穂のスタジオ兼自宅。広々として整然としているにもかかわらず、どこか温かく彼女らしい空間だ。ここで、彼女はインダストリアルデザイナーとしてさまざまなプロジェクトを手がけている。ラグ、ランプ、テーブルウェアといった日常使いのプロダクトから、抽象的な作品まで実に幅広い。美しい光の反射を活かしたアクリル製の花びらをモチーフにしたモビールを部屋の壁全体に装飾したインスタレーションなどもある。
「すべてはハーモニーなの」と、柔らかくもはっきりした口調で、そう話す。「私にとってデザインとは、何か1 つでもはずすとすべてが崩れてしまうものなの。誰かのちょっとした行動が、何もかもを台無しにしてしまうのと同じようにね」
彼女は自身の作品について、自然から多くのインスピレーションを得ていると言う。
「私は日本人で、海や地震といった自然の力を体で感じる島で育ち、毎日を過ごしていたの。そんな環境で育ってきたからこそ、自然は、万国共通の素晴らしいコミュニケーションの手段だと思うの」
そんな彼女は、19 歳でダンスの道を目指してニューヨークに渡り、後にコミュニケーションデザインを学ぶことになる。
「学校では体育と美術しか得意じゃなかったの。きっと遺伝なのね」
事実、彼女はデザイナーの家系に生まれた。父もインダストリアルデザイナーで、母はインテリアデザイナー、祖母と叔母はファッションデザイナーだという。そんな彼女がインダストリアルデザインの世界に足を踏み入れたのは2010 年。最初の作品は、自然の葉からインスピレーションを得て作られたシリコンでできた葉の形のプレートだった。
「私にとってコミュニケーションデザインとインダストリアルデザインは、同じなの。だって、製品はすべて、作り手の想いが相手に伝わらないと何の意味も持たなくなってしまうでしょう? デザインを始める時はいつも、機能と感情のバランスを考えるの。良いデザインは、その両方を兼ね備えているべきだと考えているから」
機能と感情の繊細なバランスを作りだす感性こそが、彼女のデザインにおける本質であり、同時に彼女自身の人生哲学とも言える。
「すべてはハーモニーなの」と、柔らかくもはっきりした口調で、そう話す。「私にとってデザインとは、何か1 つでもはずすとすべてが崩れてしまうものなの。誰かのちょっとした行動が、何もかもを台無しにしてしまうのと同じようにね」
彼女は自身の作品について、自然から多くのインスピレーションを得ていると言う。
「私は日本人で、海や地震といった自然の力を体で感じる島で育ち、毎日を過ごしていたの。そんな環境で育ってきたからこそ、自然は、万国共通の素晴らしいコミュニケーションの手段だと思うの」
そんな彼女は、19 歳でダンスの道を目指してニューヨークに渡り、後にコミュニケーションデザインを学ぶことになる。
「学校では体育と美術しか得意じゃなかったの。きっと遺伝なのね」
事実、彼女はデザイナーの家系に生まれた。父もインダストリアルデザイナーで、母はインテリアデザイナー、祖母と叔母はファッションデザイナーだという。そんな彼女がインダストリアルデザインの世界に足を踏み入れたのは2010 年。最初の作品は、自然の葉からインスピレーションを得て作られたシリコンでできた葉の形のプレートだった。
「私にとってコミュニケーションデザインとインダストリアルデザインは、同じなの。だって、製品はすべて、作り手の想いが相手に伝わらないと何の意味も持たなくなってしまうでしょう? デザインを始める時はいつも、機能と感情のバランスを考えるの。良いデザインは、その両方を兼ね備えているべきだと考えているから」
機能と感情の繊細なバランスを作りだす感性こそが、彼女のデザインにおける本質であり、同時に彼女自身の人生哲学とも言える。
“ デザイン以外のものが
目に入ってしまうと、
大事なディテールや
ポイントを
見失ってしまうの。
服は邪魔に
ならないものがいい”
目に入ってしまうと、
大事なディテールや
ポイントを
見失ってしまうの。
服は邪魔に
ならないものがいい”
「グラフィックとプロダクト、西洋と東洋など、……すべてはそのバランスが大切。私は東洋の文化の中で育ったけれど、今はニューヨークで暮らしている。どちらか一方に偏るとバランスを失ってしまうから、いつも中間に身を置くようにしている」
この考え方は、彼女のスタジオの在り方についても言えること。居住空間と仕事場、そのバランスが見事に調和している。
「 私は母から多くのインスピレーションを受けたわ。母のスタジオは私たちが暮らす家の地下にあって、私は子どもの頃よくそこで遊んでいたの。コピー機で自分の顔をスキャンしたり、お気に入りの色の色鉛筆で絵を描いたりね。母が私たちのために料理を作りに階段を上がってきて、また仕事場に降りていく。そんな光景を今でも覚えているの。それが今では、私がその時の母と同じような生活をしているわね」と彼女は笑って言う。
一見何気ないように見える彼女のプロダクトデザインや居住空間には、その裏でそこに至るまでの試行錯誤や考えがあることがわかる。しかし一方で、そんなひたむきに完璧を追求する彼女にも、唯一時間をかけたくないことがあるという。それはファッションだ。自分のワードローブを見ながらこう話す。
「着心地と品質。私が服に求めることは、ほとんどそれがすべて。そして、極力シンプルなものがいいわ。デザインなんて難問を解くようなもの。デザイン以外のものが目に入ってしまうと、大事なディテールやポイントを見失ってしまうの。服は邪魔にならないものがいい。私自身は目立たなくていいの。大切なのは私ではなく、私が創るデザインそのものなのだから」
この考え方は、彼女のスタジオの在り方についても言えること。居住空間と仕事場、そのバランスが見事に調和している。
「 私は母から多くのインスピレーションを受けたわ。母のスタジオは私たちが暮らす家の地下にあって、私は子どもの頃よくそこで遊んでいたの。コピー機で自分の顔をスキャンしたり、お気に入りの色の色鉛筆で絵を描いたりね。母が私たちのために料理を作りに階段を上がってきて、また仕事場に降りていく。そんな光景を今でも覚えているの。それが今では、私がその時の母と同じような生活をしているわね」と彼女は笑って言う。
一見何気ないように見える彼女のプロダクトデザインや居住空間には、その裏でそこに至るまでの試行錯誤や考えがあることがわかる。しかし一方で、そんなひたむきに完璧を追求する彼女にも、唯一時間をかけたくないことがあるという。それはファッションだ。自分のワードローブを見ながらこう話す。
「着心地と品質。私が服に求めることは、ほとんどそれがすべて。そして、極力シンプルなものがいいわ。デザインなんて難問を解くようなもの。デザイン以外のものが目に入ってしまうと、大事なディテールやポイントを見失ってしまうの。服は邪魔にならないものがいい。私自身は目立たなくていいの。大切なのは私ではなく、私が創るデザインそのものなのだから」
ブルックリンにある田村奈穂の住居兼スタジオ。手にしているのは彼女がデザインした作品。