瀬戸内海を渡るフェリーから見た空を思い出す。雲ひとつない青空と照りつける太陽の下、私は直島に向かっていた。島へ近づくにつれ、最初に目に飛び込んできたのは、印象的なフェリーターミナルの平らな屋根だった。それから数日間、歩いたり自転車に乗ったりして島をめぐり、いろいろな場所でアートに遭遇した。地中に建てられた美術館、神秘的な空間の先で出会う作品、人気のない桟橋に据えられた彫刻……。小さなカニが水たまりを横切る姿を見ながら細い路地を抜けると、古い一軒家が現れた。空き家を改装して作られたその場所では、自分を取り囲むような作品に圧倒され、目がくらむほどだった。そこでは銭湯までもがアートと化し、壁の上には実物と同じくらい大きな象のオブジェが飾られていた。この島には、至るところにアートが存在する。その予期せぬ出会いを逃さぬように細部にまで神経を研ぎ澄ませていた。
現代アートのリサーチで、ソウルやパリ、ムンバイや上海など世界中を回ったことで得た、大切な教訓。それは、心をオープンにするということ。ギャラリーや美術館だけではない。さまざまな場所やそこで出会った人々、そのすべてに対して好奇心を持って向き合うことだ。私が住むニューヨークの街には、世界的にも有名な文化施設がたくさんある。しかしアートはその中だけに存在するものではない。地下鉄の駅も、電話ボックスに貼られた売店のポスターだってアートなのだ。あなたも一歩外に出て、探してみて。きっと今まで思ってもみなかった何かに出会えるはずだから。
サラ・スズキ/Sarah Suzuki
ニューヨーク近代美術館(MoMA)で絵画・版画部門のキュレーターを務める。近現代美術に関する展覧会を数多く企画するほか、美術や版画に関する講演も多数行っている。
(ポートレート写真提供:
ニューヨーク近代美術館)
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