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Notes on Life 「家族」 是枝裕和 / 映画監督

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5歳の夏。七夕の頃、東京・練馬の自宅前にて父親とともに。(写真提供:是枝裕和)



僕の記憶にある家族の風景に「天ぷら」がある。給料日になるとよく食卓に天ぷらが並んだ。中でも僕はとうもろこしのかき揚げが一番好きだった。父も祖父もそれが好きで、「今日は天ぷら」って言うとみんな喜んで食べていた。でも祖父がだんだん呆けてきて、晩ごはんを食べて1時間くらいすると「ごはんはまだかな?」って言ったり、父が給料日に帰ってこなくなったり……と日常が一変することも。日常と非日常はいつも背中合わせだった。
やっかいだけどかけがえのないもの、それが家族だと僕は思う。一緒にいるときはやっかいな存在でも、失ってはじめてかけがえなかったと気づくもの。
父は僕の作品に感想を言ったこともなく、僕の作るものには興味がないと思っていた。本を読んだり音楽を聴いたりもせず、読むといえば競馬新聞くらい。そんな父が、晩年足が悪くなって通っていた治療院に、僕が載った新聞記事を先生に見せてそれを壁に貼ってもらっていたそうだ。「なんだ、僕の作るものに興味があったんだな」とか「父も嬉しかったんだ」と、亡くなってからはじめて知った。その時の想いは、最新作『海よりもまだ深く』の最後のシーン、すずりで墨をする主人公の姿にも込めた。そんな風に家族に思う「やっかい」と「かけがえのない」は同時ではなく、いつでもずれてやってくる。常にその両方を感じられていたら、人はもっと幸せになるのかな。
家族の定義とはなんだろう。血縁関係はなくても、何か同じことをしているという共有感みたいなものがお互いにあれば、それは家族と呼べるのかもしれない。『海よりもまだ深く』でも、主人公が勤める探偵事務所内に見られる血縁を超えた家族のような関係や、血縁はあっても壊れてしまった親子、かつての嫁と姑……とさまざまな家族のかたちを描写している。家族のかたちはもっと多様でいいし、もっと変わっていっていいと僕は思う。その一方で血縁にはかなわない部分だってある。だんだん父に顔や声、眉毛の形が似てきたし、朝起きた時の枕の匂いに父を想起する。良くも悪くもこの現実はなんなんだろう……と感じながらも、断ち切ることなんてできないし否定するものでもない。
やっかいだけどかけがえのない、家族への変わらぬ想い。どんどん変わりゆく家族のあり方。そんな時代の狭間にいながら、これからの新しい家族のかたちを考えていきたい。今後は、血縁のない擬似家族的な集団を描く作品も手がけてみたいと思っている。多くの人は非日常を経験するために映画を観る。でも僕は、人の日常生活に寄り添う映画を作りたい。それまでやっかいでくすんで見えていた日常が、映画館を出た時にかけがえのないものに見えるように。





是枝裕和/ Hirokazu Koreeda

1962年東京生まれ。主な監督作品に、主演の柳楽優弥がカンヌ国際映画祭で史上最年少の最優秀男優賞を受賞した『誰も知らない』(04)、『歩いても 歩いても』(08)、自身初の連続ドラマ『ゴーイング マイ ホーム』(12)、カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した『そして父になる』(13)等。近作の『海街diary』はBlu-ray/DVD発売中。最新作は『海よりもまだ深く』。



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