3歳の時、家族と日本に引っ越してきた。以来どこの国に行っても、日本で食べたものの味が忘れられないでいる。甘いクリームも牛乳も卵も、シンガポールやマレーシアで食べた味とは違っていたし、醤油やみりん、味噌のような日本独自の調味料の味も印象的だった。ある時、両親がお菓子を買ってくれて私はグレープ味のガムを選んだ。そのガムこそが、私にとって初めての「甘いもの」の味の記憶。そして日本の思い出として色濃く残っている。
私には、「甘いもの」にまつわる思い出がたくさんある。カレーよりも断然シュークリームが大好きな子どもだった。そしてそんな私の「甘いもの」の記憶には、必ずストーリーがある。単純に舌で覚えている味の思い出もあれば、誰かの誕生日パーティの楽しかった思い出もある。
2016年に初めて東京にオープンした私のデザートバー『ジャニス・ウォン』のデザートを通じて、色んなストーリーを味わってほしい。私はパティシエだけど、ただ単にデザートを作っているだけではない。私の店にお越しいただいたお客様には、デザートを味わうだけでなくテーブルで過ごす時間も楽しんでもらいたいと考えている。
大切なことは、誰もしたことのないことにチャレンジして、お客様に新たな体験をしていただくことだ。
一番重要なのは、「他の誰も味わったことのない」体験であるということ。でも、それを生み出す真のクリエイティブのための教科書は存在しない。だからいつも、固定観念にとらわれない自由な発想が必要。例えばもし、カレーを一度も食べたことのない人がカレーを作ったら、どんなものができるだろう? 私たちが知っているカレーとは違った味になるかもしれない。そんな発想が、新しいものを生み出すと私は信じている。今までにない新しいデザートを通じたストーリーが、お客様にとって忘れられない「味の記憶」となれば、そんな嬉しいことはない。
ジャニス・ウォン/Janice Wong
次々と斬新なスイーツを生み出し、五感で楽しめる新感覚のデザートを提案。2007年にデザートとお酒を深夜まで楽しめる『2am:dessertbar』をシンガポールにオープン。2013年、14年には「アジアベストレストラン50」にてアジア最優秀ペストリーシェフ(パティシエ)に選出された。2016年東京・新宿「NEWoMan」にデザートバー『ジャニス・ウォン』をオープン。世界各国にある自身のレストランについて書いた本も出版。
ブランドブック「The LifeWear Book」の2016年秋冬版が完成。
WEBで全ストーリーがご覧いただけます。是非店頭でも手にとってご覧ください。